東京地方裁判所 平成8年(行ウ)216号 判決
原告
株式会社伊勢屋
右代表者代表取締役
園部伸子
右訴訟代理人弁護士
土屋東一
同
岩﨑淳司
同
佐藤貴夫
被告
武蔵野市長 土屋正忠
右訴訟代理人弁護士
中村護
同
林千春
同
永縄恭子
同
濱秀和
同
宇佐見方宏
右指定代理人
南雲嘉正
同
西福二郎
同
三宅治光
同
大林保
事実及び理由
第三 争点に関する判断
一 地方税法(以下「法」という。)一四条の一八は、地方団体の徴収金を滞納した納税者等がその徴収金の法定納期限等より後に権利移転の登記を経由し、あるいは右法定納期限等より後に譲渡担保に供した財産がある場合で、その者の財産につき滞納処分を執行しても徴収すべき徴収金に不足すると認められるときは、譲渡担保財産から右徴収金を徴収することができるものとした(一項、七項)。しかし、譲渡という法形式により譲渡担保財産の所有権は譲渡担保権者に移転していることから、譲渡担保財産に対して滞納処分をする場合には、譲渡担保権者を第二次納税義務者とみなすという方式を採用している(三項)。また、右滞納処分の手続として、地方団体の長は、滞納処分に先立ち譲渡担保権者に対し徴収しようとする金額等を告知すべきものとされ(二項)、この告知の後に、譲渡担保権の実行等、被担保債権が債務不r履行その他弁済以外の理由により消滅した場合にも、譲渡担保財産として存続するものとして滞納処分を続行することができるものとされている(六項)。
これによれば、譲渡担保権者に対する告知までに、譲渡担保権の実行等により譲渡担保財産が譲渡担保権者に確定的に帰属し、被担保債権が消滅していた場合には、右に説示した滞納処分の対象とすることができないことになる。
二 ところで、譲渡担保の性質については、それが所有権の移転という法形式を有する担保であることから、所有権と担保権の性質のいずれを重視するかによって、個別論点について、なお学説、判例が帰一しない状況にあるが、所有権移転という観点を強調する立場によっても、譲渡担保権の設定者は債務を弁済して譲渡担保財産を受け戻す権利を有し、譲渡担保権者は譲渡担保を実行して右受戻権を消滅させる権利及び譲渡担保財産の価格と債務との清算をする義務を負担する。そして、譲渡担保設定者の受戻権と譲渡担保権者の担保実行権とは別個の権利であって、譲渡担保設定者が受戻権を放棄しても譲渡担保の実行、清算が強制されるものではなく、譲渡担保権者は本来の債務の履行を求めることもできるのである。なお、受戻権の消滅のために清算の通知のみで足りるか、あるいは現実の清算を要するかはなお学説の別れるところではあるが、いわゆる「確定的な所有権移転」とは、一般には、譲渡担保権の実行において譲渡担保設定者の受戻権が消滅することをいうものと解されている。
ところで、法一四条の一八は、譲渡担保権の設定によって譲渡担保財産の所有権が譲渡担保権者に移転することを前提に、確定的な所有権移転前の譲渡担保財産への滞納処分を許容し、担保的性質を有する時的限界を債務不履行その他弁済以外の理由による被担保債権の消滅の時までとしていることは前記のとおりであり、右理由による被担保債権の消滅があるときは受戻権も消滅していることは明らかである。
したがって、本件での争点は、原告が本件差押えに係る告知時までに、譲渡担保権を実行したことによって、被担保債権ひいては受戻権が消滅していたか否かにある。
三 本件譲渡担保契約には、「乙が第一条の債務を履行したときは、譲渡担保物件の所有権は、乙に復帰する。」旨の記載があることは、既に摘示したとおりであるが、この文言は、譲渡担保の設定によって譲渡担保財産の所有権が譲渡担保権者へ移転したことを前提に、譲渡担保設定者の受戻権を規定するものであり、受戻権の消滅時期あるいは確定的な所有権の移転時期を定めるものではない。したがって、右文言をもって、本件譲渡担保が履行期の徒過により当然に譲渡担保権の実行があったものとする当然帰属型なる類型に該当すると解することはできない。
なお、原告は、いわゆる帰属清算型の譲渡担保の実行としてされる譲渡担保不動産の引渡と清算金の支払とは同時履行の関係に立つ旨を判示した最高裁判所昭和四六年三月二五日第一小法廷判決(民事二五巻二号二〇八頁)を引用して、弁済期の経過によって確定的に譲渡担保財産の所有権が移転していないとすれば、原告に所有権が移転しないことを理由に譲渡担保不動産の引渡請求が排斥されたはずであるとして、いわゆる帰属清算型の譲渡担保においては、弁済期の経過によって確定的に譲渡担保財産の所有権が移転する根拠とするが、右判決は、譲渡担保の実行として当該財産の所有権が債権者に移転することを内容とする帰属清算型の譲渡担保において、譲渡担保権者がする所有権に基づく引渡請求を担保目的の実現手段であるとして、履行期の後であっても譲渡担保の実行までは清算義務が存続することを明らかにし、引渡請求と清算金支払との関係を判示するものであり、原告のいう「確定的所有権」でなければ目的物の引渡しを求める請求原因にならないとするものではないから、右判例を履行期の経過によって確定的に所有権が移転することを前提とするものとして引用することは適切でない。
四 本件譲渡担保が原告の主張するような当然帰属型に該当しないことは既に述べたとおりであり、本件において、清算が未了であることは当事者間に争いがない。したがって、本件においては、原告の主張を前提としても、なお譲渡担保設定者の受戻権が存続し、被担保債権も消滅していないことになる。
そして、既に摘示したとおり、訴外人は、前記滞納徴収金を負担し、訴外人の財産につき滞納処分をしても、徴収すべき徴収金に不足していると認められるから、本件差押処分は適法である。
五 よって、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 竹野下喜彦 岡田幸人)